コラム COLUMN
リハビリをして良くなってほしいけど、なかなかやる気を持って取り組んでもらえない、そんな場面での考え方 ~当事者に関わる第三者(セラピスト等)に向けて~
以前、こちらのコラムで、当事者の方やそのご家族様に向けて、やる気が出ない時にどう考えればいいのか、その一例をご紹介しました。
今回は、それを医療従事者側(セラピストや看護師等)に立って、考えてみたいと思います。
どのようにして関わる方々にやる気を出してもらい、目標達成につなげていくのか。
何かしらの気づきにつながれば幸いです。
また、医療従事者でない方も、視点は違いますが、何かに気づける内容になっているかと思います。
もしよかったら、一読してみてください。
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目次
やる気マンマンの人って、どんな人??
さて、このコラムを読もうと立ち寄ってくださった方は、少なからず、患者様やご利用者様にやる気がなく、困った経験がある方だと思います。
私も以前、新人の頃は特にそんな場面が多くありました。
やる気が出ていないのに無理強いは出来ない。でもそうしたらしっかりとした成果は出ない。目標達成は出来ず、ただただ時間だけが過ぎていき、自身は焦りや後悔の念ばかり。当事者の方に申し訳ない。。。
しかし、現在の私は、そういった機会は少なくなり、逆に他セラピストが”やる気がなくて消極的で困っている”と難渋するご利用者様にも、私が介入すると頑張ってくださるような、そんな場面が増えました。
……では、昔と今、私の中で何が変わったのか。
振り返りつつ考える前に、まずは悩みをより明確にするために、逆説的に『やる気に満ち溢れた、やる気マンマンの人』とは、どういう人なのか、を考えてみましょう。
リハビリにおいて、やる気マンマンの人、
その答えは単純明快です。
それは、
『目指す目標に向けて、望む結果が得られており、それを実感している人』
です。
足を骨折し、思う様に歩けなくなった人が、リハビリで痛みが減り、荷重量が増えて松葉杖歩行ができ、着実に回復しているなら、リハビリを頑張ろうと思うでしょう。
脳梗塞で倒れた人が、リハビリで徐々に動かせる部分が増え、感覚が戻り、日常生活動作もどんどん自身で行えることが取り戻せてきたなら、もっとリハビリ頑張ろうと思うでしょう。
つまり、逆を言えば、それが叶っていない状況にあるので、やる気が出ないのです。
特に高齢者の場合、やはり若い方々と比べると心身機能の回復は緩やかになります。
当然ながら、治療が長期化し、目標達成や望む結果が得られるまでに時間がかかる傾向にあります。
そうなると、よくなっている実感や達成感が得られにくかったり、自身のイメージする姿とかけ離れていることに落胆しやすかったりもしてしまいます。
そして「やっても仕方ないな」と感じてしまったり、高齢者特有の「もう年だから」という先入観に囚われてしまったりして、やる気はどんどん低下していきます。
そんな状況でも、やる気を出してもらうには、それが叶うように関わっていけばいいのです。
そのことを、より詳しく、考えていきましょう。
それ、ひとりよがりになっていないですか?ちゃんと伝わっていますか?
まずは、上記で述べた、”目指す目標に向けて” の部分が叶っていない場合です。
あなたは、目の前の患者様・ご利用者様のことを、よく知っていますか?
どれだけ本気で、その方に寄り添うことができているでしょうか?
例えば、同じ”人工股関節置換術術後”の方でも、退院後に職場復帰を目指している方や専業主婦に戻る方、独居で生活動作一式を全て自身でしないといけない方等々、その戻りたい最終的な目標は、100人いれば100通りあります。
全く同じものはありません。
目の前の患者様・ご利用者様が向いている方向と、リハビリを提供する側が向いている方向が少しでもずれていると、信頼関係は生まれませんし、そこに「ちゃんと治すために頑張ろう」とする意欲・やる気も生まれてきません。
また、こちら側がどれだけ熱い思いでいたとしても、それが当事者様の心に響くことはないでしょう。
目の前の患者様・ご利用者様は、自身の心身で治したい部分・弱ってしまった部分があることで、あなたを頼ってきてくださっています。その思いをまずは受け取り、しっかりと話をしましょう。
話すことが難しい方なら、言葉以外のコミュニケーションをとったり、その方の近しい人から情報を得たりしてみましょう。
リハビリはよく ”当事者様とセラピストの二人三脚” とも言われます。ともに歩んでいく姿勢を忘れずに、リハビリに取り組むことは、当たり前の様で、意外と見落としてしまいがちな落とし穴です。
今一度、自身の姿勢を振り返ってみてはいかがでしょうか。
続・ひとりよがりになっていないですか?
次に、上記で述べた、”望む結果が得られており” の部分が叶っていない場合です。
これに関しては、原因を大きく2つに分けることができるかと思います。
①セラピスト側に問題がある場合
②患者様・ご利用者様に問題がある場合
①については、セラピスト自身の力量や経験値に左右される部分があります。そのため、いくつになっても慢心することなく、自己研鑽し続けていくしかありません。
しかし、それを続ける中で自信も生まれ、成功体験も増え、当事者様が望む結果を提供できる技術やスキルが培っていけるでしょう。
もし、あなたがまだ経験年数も浅く、自信を持って提供できるリハビリも乏しいなら、先輩や同僚に相談したり協力を仰いだりすることも必要かもしれません。
目の前の当事者様の最終的な目標を叶えることが、私たちの使命です。”望む結果が出る”というのは一番分かりやすいやる気の源となり得ますので、そこは大切にしていきましょう。
②については、いくらかはその当事者様に責任があるかもしれません。
例えば、いかに効率的で適切な自主トレの内容等をお伝えしても、それをご自身で励んでもらえない場合は、当然ながら治癒は遅くなりますし、治らなくなるかもしれません。
但し、その場合でも、何故自主トレに励めないのか。障害となっている部分を共有し、そこを改善できる方法や手段を伝えて、望む結果が得られるように支援する。
先程もお伝えしましたが、振り返りつつも、寄り添いながらともに歩む。そういった姿勢は必要ですので、今一度、自身の姿勢を振り返ってみてはいかがでしょうか。
続・ちゃんと伝わっていますか?
最後は、上記で述べた、”それを実感している” の部分が叶っていない場合です。
よく”あるある”なことですが、セラピスト目線で見ると、良くなっている部分がたくさんあっても、それを当事者様ご本人はいまいち実感できていない、ということがあります。
例えば、歩行練習をして良い結果が得られても、視点が違うと以下のようになります。
<セラピスト目線>
前回より骨盤が立って姿勢が良くなっているし安定性も増している。
持続して歩ける距離も、部屋内を2往復から4往復に増えた。
もう少し持久性がついてきたら、屋外歩行にチャレンジしてみよう。
2ヶ月後には目標としていた、近所のスーパーまで行けるかな。
<当事者様目線>
「前より骨盤が立ってる」と先生は言っているが、よくわからん。
実際、今日も歩いたときにふらふらする感じは残っているしなぁ。
ちょっと歩く距離が伸びたって、まだまだ家の中でも転ぶかもしれん。
いつになったら、自分の脚で買い物できるようになるんだろう。
最初にもご紹介した、以前のコラムにも書いていますが、ちゃんとした報酬や望んだ結果
が得られているかどうかを実感してもらうには、定量的に明確に示すことが有効です。また、あまりに大きな目標では、最終的に「できた、できなかった」の、0か1かの結果論に陥りやすいので、次のやる気や意欲につながりにくい傾向があります。
その場合は、段階的に物事を捉えて、その間に積み重ねた小さな成功体験を実感していくと、やる気につながりやすいと言われています。
そう考えつつ、上記の例をもう一度考え直すと、以下のようになります。
<当事者に寄り添ったセラピスト目線>
(徒手的に骨盤を立てて)こうなると、歩くときの姿勢が伸びてきませんか?
(鏡で見ながら歩いて)左右にぶれる揺れが減ったので、歩行が安定してきていますね。
ふらつく感じは残っていますか?それなら、もう少し立位バランスを鍛えてみましょう。
前は10m連続で歩けたのが、今回20m連続歩けています。
この調子で50m程度歩けるようになったら、屋外のゴミ捨て場まで行ってみましょう。
近くのスーパーまで、200m位ありますね。往復で400m。
スーパー内も歩くことを考えると、1度休んだ方がいいかもしれません。
早くて2ヶ月後くらいですかね、一度買い物にチャレンジしましょうか。
…どうでしょうか。イメージしやすく、これを頑張ればいいんだな、と目的意識も明確にイメージしやすいのではないでしょうか。
そうなると、やる気も出やすくなってきます。
高齢になると、単純にこの「よい結果を実感する」ということ自体、苦手になってきます。
一般的に、年を重ねるにつれて感覚機能は低下してきますし、自身のイメージをつくることも難しくなります。
頭の中のイメージと実際の身体イメージとの差も大きくなり、その修正はもちろんのこと、その差を感じ取ることも難しくなります。
加えて、「自身がそういう老いた状況になってしまったことを認めたくない」という自身の中での葛藤、「そんな自分を見つめ直すのは恥ずかしい・嫌だ」という自己肯定感の低下といった負の感情も、実感することの邪魔となります。
そういった、高齢者特有の傾向を知っておくことで、そこに配慮したものの伝え方や言葉の選び方ができます。イメージしにくい方でしたら、言葉ではなく図で説明したり、その方の生活や趣味などにより密着した目標設定を行ったり、実際に鏡を使って自身の姿を確認しながらアドバイスしたりしてもいいでしょう。
「老い」に対して負の感情を感じておられるなら、その方と同年代の他の患者様・ご利用者様とともに交流しながらリハビリをすすめたり、より高齢な方の成功例等を紹介して自信を持ってもらえるよう促したりするのもいいかもしれません。
私には左片麻痺を呈した母がいますが、脳血管障害のリハビリを行う際に、話のネタによく登場してきてくれます。
目の前の当事者様のやる気向上に、一役買ってくれています。(お母さん、いつもありがとう!(笑)
このコラム内で何度もお伝えしていますが、如何にその方の人となりに寄り添って、共感しながら、その方の目線に立って、同じ方向に歩んでいけるか。そこに掛かっているように思います。
まとめ
今回のコラムも、ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
…いかがだったでしょうか。
あなたの、何かしら気づきにつながる部分はありましたでしょうか。
実際の臨床現場で日々奮闘されている中で、「あの人全然真剣に取り組んでくれないんだよなー」とか「あのおばあちゃん、いっつも消極的でこっちまで気持ちが滅入っちゃう」なんて感じる場面もあるかもしれません。
特にご高齢の方になると、「わしゃもう長くないし、しんどい思いしてまで治そうとは思わない」とか「早くお迎えこないかな」と、生きることにナーバスになられる方も居られ、より難しく感じる場面もあると思います。
しかし、そんなときこそ、視点を変えてみましょう。
”やる気が出ない”原因を、その当事者の方だけにフォーカスするのではなく、あなた自身にもフォーカスしてみてください。むしろ、まず、あなた自身にフォーカスしてください。
もしあなたが、怪我してリハビリを受ける、となった際に、まだ痛みのある足で「はい、しっかり体重のせてスクワット10回しましょうか」と、すごく年の離れた若者になんとなく言われたら、やる気が出るでしょうか。
その当事者の方は、現時点での状態を良くしようと、私たちにその心身を託してくださっています。こちらの思惑や内心は、思っている以上に、表情や言葉、態度や姿勢に表れますし、それはその当事者の方のやる気や意欲に直結します。
逆に、生きることにナーバスな方でも、「あんたと関わるこの時間は楽しいから、もう少し頑張ってみるわ」と、リハビリだけでなく生きることへの意欲ややる気も出してくださった方を、私は何人も経験しています。
『やる気』とは、当事者様でも、そこに関わる方々でも、真剣に、本気で関わることで、必ずしや湧いてくるものなのではないでしょうか。
このコラムが、何かしらのお役に立つことを願っていますし、そうなっていれば幸いです。