コラム COLUMN

「目標をもってリハビリテーションをするとより効果的?」 ~リハビリの目標設定が必要な理由~

コラム

前回のコラムで日本という国ではケガ・病気をすると、入院してからある程度の期間リハビリテーションを行うことができます。

ですが、同じようなケガ・病気の重症度や症状の方でも退院時や退院後の身体の状態には

個人差がかなり見られます。

これは何故なのでしょうか。私自身も考え込んだことがあります。

私の経験から申し上げますと、入院中のリハビリテーションで身体の状態が良くなる人には

題名にある通りしっかりとした目標を設定してそれに向かってリハビリテーションができたから

だと思います。

今回はリハビリテーションに対する目標設定の重要性についてお話できればと思います。

リハビリに関するご相談を受付中!
まずはお気軽にご連絡ください。

目標設定の意味

リハビリテーションの世界でも目標を設定して実施することが大切だ。ということを大学や専門学校の

講義で教えられているところもあります。

短期目標は△△、長期目標は○○といったように臨床実習でもレポートに書き込んでいる事が多いです。

では実際に目標を設定する理由は何なのでしょうか?

目標があることで課題が見えてくる

例えば、東京に住んでいる人が旅行を計画するとします。

旅行をするとなると目的地を設定すると思いますが、目的地が定まっていないと、どうやって行けばよいか分からないですよね。

目的地が北海道と決まっていると、東京から飛行機で行くか、東北地方を中継地として

新幹線や車で向かい、青森から船で北海道に上陸する。

といったように、目的地(最終目標)が定まることで、そこに向かうまでの道のり

(目標を達成するまでの課題)が決まってきます。

これはリハビリテーションにも言えることで、ある患者さんは足の筋力が低下して歩きにくい状態なのに、筋力トレーニングをせずにリラクセーションだけだと、歩けるようになるまで時間がかかることは

ご想像しやすいかと思います。

このように目標が定まっていない状態でやみくもにリハビリテーションをしても、

達成するまでに時間を要したり達成できなかったりします。

目の前の患者さんがどうなりたいか(長期目標)をはっきりさせると、それを達成するために必要なことは何か(短期目標)が浮彫りとなるわけです。

明確な目標設定とは?

目標を明確にすることが大切なことはご理解されていると思いますが、

目標設定には注意点も存在します。

以下に注意点を挙げますのでご参考にしていただければと思います。

目標の曖昧さ

実際に皆さんはどのように目標を立ててリハビリテーションを行っているでしょうか?

短期目標:屋内杖歩行自立 長期目標:屋外杖歩行自立

これは例ですが簡単に書くとこのような目標を立てていることが多いかと思います。

しかし上記の目標は実は曖昧で、その目標が達成できれば患者さんが本当に社会生活に復帰出来るかは少し分かりにくいのではないでしょうか?

患者さんだけではなくセラピストも、今立てている目標が達成されればどんな環境で

どのように患者さんが生活できるかを、具体的に想像することが大切だと思います。

目標を共有できていない

これはセラピストと患者さんが描いている退院後の生活が同じかどうかが関係します。

例えば、患者さんは家の中は物が多いから伝い歩きで移動して、外は歩行器を使って徒歩10分のスーパーに買い物に行く必要がある。

(スーパーまでの往復とスーパーでの買い物時間を考慮して最低1時間程度は立つ・歩く能力が必要)

といった目標があるとします。

しかしセラピストは退院後は家の中も歩行器で移動して、外は10分程度歩行器で歩けるようになる。

といった目標を設定したとします。

するとどうでしょうか?患者さんとセラピストが各々で目標が違いますので、

行われるリハビリテーションの内容も変化し、患者さんの意欲やリハビリテーションに対する

満足度にも変化が生じてしまいます。

この状態でリハビリテーションが進むとセラピストは退院までに

「歩行器で屋外歩行を10分行えた!目標達成だ!」と思っても、

患者さんは「まだ伝い歩きができないし、10分歩けるだけでこれじゃスーパーに着いて買い物なんて

できないんじゃないか…?」と思われるのではないでしょうか。

この目標のズレが患者さんのモチベーションを下げ、適切なリハビリテーションを提供できていない

可能性があります。(逆も然りです)

患者さんの考えている退院後の生活像とセラピストが掲げる目標をすりあわせ、

時には話し合いながら目標を共有し、二人三脚でリハビリテーションを行いましょう。

以上を踏まえてリハビリテーションにおける目標設定をすることで、患者さんの社会復帰により着実に

近づくことが出来るかと思います。

目標設定の方法とデメリット

目標設定が重要なことはご理解いただけたでしょうか。

ではセラピストと患者さんの目標が同じ方向を向いて、どのような過程を踏めば達成しやすくなるのか。

具体的な方法をご紹介します。

まずは現状把握と情報収集

なによりも大切な事かと思います。

患者さんの以前の生活像からケガ・病気に至った経緯、そして退院後の生活像を

共有していることが重要です。

現疾患の経過や既往歴の有無、患者さんの人物像や社会でどのような事をしてきたか、

退院後はどのように生活していくのか、

社会サービスやご家族・知人・職場の方の協力はどこまで得られるのかなど、身体機能だけでなく、

視点を変えて情報収集していくことが大切かと思います。

セラピストはICFなどを用いて患者さんに関する情報をまとめてみても良いと思います。

SMARTを用いる

現状把握と情報収集でその患者さんの状態がまとまったら、実際に目標を設定していきます。

ここでSMARTの法則を用いると目標設定が行いやすいかと思います。

会社で働くビジネスマンの方々であれば聞いたことがあると思いますが、

SMARTとは

  • Specific(具体的に) 
  • Measurable(測定可能な) 
  • Achievable(達成可能な) 
  • RealisticまたはRelevant(現実的な) 
  • Time-bound(期間内に)

の各用語の頭文字を取ったものです。

何となく目標を立てると「退院時は杖歩行自立になる。」といったように、

すこし具体性のない目標となりやすいですが、このSMARTになぞらえて目標を設定すると、

退院後は徒歩500mのスーパーまで週3回買い物に行く必要があるため、

退院までに10kgのリュックサックを背負って、屋外を連続45分歩行可能となることが目標。

とすると、退院後に生活に必要な身体機能が見えやすくなります。

目標設定の例に関しては「リハビリの目標設定って難しい……、と思っていませんか?」をご参考ください。

リハビリテーションにおける目標設定ツールを使用する。

これはセラピスト向けのものになります。

有名なものではGASやCOPMなどを用いて患者さんと目標を設定・共有し、

その目標に見合った評価方法や訓練内容を見つけていきます。

GAS(XPERT様より例を引用)

COPM(医学書院様より引用)

目標設定の注意点

目標設定を行うことで必要なリハビリテーションが見えやすくなりますが、

同時に注意しておくことが何点かあります。

①患者さん中心であること                                         患者さん自身が能動的に目標設定を行うことでリハビリテーションにも主体感が生まれ、

モチベーションが高まりやすいです。

②包括的な視点を取り入れる                                        目標設定を行う際は患者さんの身体・精神・感情・社会的なニーズに合っているかを

確認することが大切です。

③目標を見直す                                             患者さんの状態が変化することで今まで掲げていた目標が患者さんの中で変化することがあります。

数週間~1ヶ月ごとに目標の確認と再設定をすると良いかと思います。

④周りの人も巻き込む                                           できれば患者さんとセラピストだけでなくご家族さんや介護者さんを巻きこんで、

皆さんで目標を共有することで退院後もスムーズに生活しやすくなります。

目標設定のデメリット

これまでは目標設定の重要性についてご紹介してきましたが、

デメリットもいくつかありますので以下の点を参考にしていただき、患者さんとの擦り合わせに

利用していただければ幸いです。

①目標自体が過度なプレッシャーとなる                                   適度なプレッシャーであればモチベーションに繋がりますが、高すぎる目標や失敗のイメージが強いと

意欲が削がれる可能性があります。

②一度決めた目標に固執しすぎる                                      患者さんの目標は変化していくことを先に述べましたが、それに合わせず一度決めた目標に

執着することは患者さんの今後の好みやニーズに沿えなくなる可能性があります。

③目標が非現実的すぎる                                         余りにも高い目標を設定すると達成するのは困難です。達成感が生まれないと

自分や周りへの失望や苛立ちに変化しますので、達成可能な目標をその都度設定することが大切です。

【まとめ】こまめに患者さんと向き合い、目標の見直しを!

いかがでしたでしょうか?目標設定は刻々と変化するものであり、

患者さんだけ、セラピストだけが掲げていても大きな成果は得られにくいです。

患者さんが主体となり、セラピストや医療スタッフ・ご家族ご友人が関わり、

ワンチームとなってSMARTになぞらえて目標を設定し、より良質なリハビリテーションに

結びつけていただければ幸いです。

リハビリに関するご相談を受付中!
まずはお気軽にご連絡ください。

小栢 崇裕

【監修者】

株式会社ナッセ / 理学療法士
小栢 崇裕(オガヤ タカヒロ)

プロフィール
新卒で回復期リハビリテーション病院に入職。
その後、2018年4月にナッセへ訪問リハビリ・デイサービス機能訓練指導員として入職。
デイサービスリハビリ部門リーダーとして約20名のセラピストマネジメントやリハビリデータの収集・解析・フィードバックも行う。
研究業績
・第2回日本予防理学療法学術集会
・第36回東京都理学療法学術大会
・回復期リハビリテーション病棟協会 第31回研修大会in岩手