コラム COLUMN
歩行訓練の必要性について~様々な疾患に対する歩行訓練の意味とは~
リハビリと言えば歩行訓練!と一般の方でもすぐに連想されるかと思います。
しかし、「歩行訓練ってなんでするの?どんな意味があるの?」と、疑問に思われる方もいらっしゃるのではないでしょうか?
このブログを読むことで以下のことについて理解が深まるかと思います。
これまで何となくセラピストとともに歩行訓練をやっていたのが、
目的・目標がはっきりとした歩行訓練になり、よりモチベーションを高くした状態で
リハビリテーションに取り組めるかと思います。
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目次
歩行訓練とは?歩行に必要な要素って?
と言われるほど、
人にとって歩行は健康や生活において重要な要素です。テレビやネットでも
「歩行能力の改善が健康の元だ」といった宣伝を良く耳にすると思います。
新聞を取りに行く、ゴミを捨てに行く、仕事に行く、買い物に行く、ペットの散歩に行く
などなど、人は必ず歩行を土台として日常や社会に関わっています。
病気・ケガによりベッド上安静を余儀なくされると、
歩行するために必要な筋肉や神経の活動が弱まり、
しっかりと歩くことが出来なくなることが多いです。
歩行が困難になると日常生活や社会生活にも
支障がでてしまいます。
そのためリハビリテーションでの歩行訓練によって
日常生活や社会復帰に必要な移動能力を取り戻すことが重要となってくるのです。
「歩行訓練は生活において重要な、移動能力の改善に必要なこと」と思えば、
必要なことなんだとご認識いただけると思います。
では歩行に必要なものは何なのか?と考える方もおられると思います。これから説明させていただきます。
①筋力・関節可動域
どなたでもご想像できる要素かと思います。
骨折や手足の運動麻痺などが無い正常な高齢者78名を対象にした研究では、
体重に対する膝伸展筋力(膝を伸ばす筋力)が高い数値を示す高齢者は
歩行が自立している割合が高いことから、足の筋力は歩行に
大きく関係しています。
しかし、姿勢や関節の可動性などによって筋力が充分でも歩行が不安定になる方もいらっしゃるので、
筋力があれば必ず歩行が安定するとは限りません。
関節可動域は関節の運動範囲のことを指します。
例えば足首の関節が硬く、つま先を上に上げられない場合は歩行中にすり足になりやすく、
ちょっとした段差につまづいて転倒する可能性が高くなります。
また関節の動きが良くてもつま先を上に上げる筋力が低下していると、同様のことが起こりえます。
筋力と関節可動域は両方備わっている事が重要です。
②感覚
感覚も歩行には重要な要素となります。
歩行に重要な感覚は主に⑴視覚、⑵固有感覚、⑶平衡感覚の3つです。
大まかな説明をさせていただきますが細かい解説は割愛させていただきます。
視覚はその名の通り目の前の障害物を見つけることや、
こちらに向かってくる人や物をとらえる感覚です。
目の前が真っ暗な状態では皆さん普段よりも慎重に歩こうとされると思います。
視覚は前進歩行をするために必要な情報を伝えてくれます。
固有感覚はあまり聞きなれないかと思いますが、足裏の地面の状態はどうか、足の関節がどれくらい動いているか、
筋肉の長さや収縮はどの程度なのか、などを脳に伝えている感覚です。
この感覚をもとに人は不整地でもスムーズに左右の足を踏み出して歩行できるのです。
平衡感覚は耳の中(内耳)にある三半規管
という部分が担っています。
身体の傾きや回転などを捉える感覚です。
仮につまづいたとしても即座に足を出して
転倒を防げるのは、 この感覚のおかげです。
他にも様々な要素が関わっていますが、以上2つの要素が安定した歩行に主として必要なこととなります。
リハビリテーション(特に理学療法士)はこの要素に着目しながら、患者さんの身体の状態に合わせて
歩行練習や歩行に必要な訓練を実施していきます。
疾患別歩行訓練の効果
では次に、各疾患における歩行訓練の効果を簡単に解説していきます。
病院では主に以下の疾患をメインにリハビリテーションを実施しています。
①整形疾患(骨折など)
②脳血管疾患(脳梗塞片麻痺など)
③呼吸、循環器疾患(肺炎や心不全など)
これらの疾患に対する歩行訓練の効果を解説させていただきます。
①整形疾患
骨折などで手術またはギプス固定で足に体重をかけない期間をもうけられた(免荷期間) 場合は、
受傷された側の足は動かしたり、骨に刺激が入ることが少なくなります。
結果的に関節が硬くなり、筋肉は瘦せていき、いざ体重をかけても良いとなった後に、
立ったり歩いたりするための能力が伴っていない状態である可能性が高いです。
また体重をかけない足の骨は骨密度が低下しやすいとされており、
骨密度が低下した状態でいきなり歩行をすると再骨折する可能性もあります。
リハビリテーションでは主治医の指示のもとで免荷中でもその骨折部位以外の
足の筋力トレーニングや関節可動域訓練を行ったり、
骨癒合の状態を見て体重の1/3だけ骨折側の足に体重をかける訓練(荷重訓練)からスタートします。
認知機能が保たれている方であれば、主治医の指示のもとで
松葉杖歩行や歩行器歩行を実施していき、骨の形成を促し、
骨折側の足の筋力などを回復させるための歩行訓練を実施します。
②脳卒中
脳卒中に対するリハビリテーションについてはこちらもご参照ください。
現在の脳卒中に対するリハビリテーションは状態が安定すれば急性期病院にて、
できるだけ早期にリハビリテーションを実施するようになってきました。
早期にリハビリテーションを実施することで、回復期病院から退院する時の
身体機能が改善されやすいからです。
起き上がり・立ち上がりなどの起居動作訓練も行いつつ麻痺側の足に装具を装着して、
セラピストの介助下ですぐに歩行訓練を実施します。
脳卒中後は感覚麻痺や運動麻痺により脳と身体の結びつきがが弱まっているため、
立っている感覚を感じたり、自分で麻痺側の足を動かすことが困難ですが、
装具を着用し歩行訓練を行うことで麻痺側の筋肉や神経に刺激が加わり、
麻痺が改善するとされています。
脳卒中後の身体機能の回復には早期のリハビリテーション介入と高頻度・高回数の訓練が
機能改善に大きく関係しますので、装具着用下での早期の歩行訓練は有効というわけです。
また麻痺の改善度に合わせて様々な環境の中での運動を行っていくことで、
退院時に歩いて移動できることを目指して訓練を行います。
②呼吸・循環器疾患
肺疾患や心疾患に対しても歩行訓練は有効となることが多いです。
ここでは代表として心不全を例にして歩行訓練の有効性を説明させていただきます。
心不全とは簡単に説明すると心臓が血液を全身に送る機能が低下していることを指します。
心不全は様々な原因が絡まって起こるとされています。そして心不全の評価には、
歩行スピードと全身の筋肉量が含まれています。
歩行スピードが早い方は同年代の歩行スピードがゆっくりの方と比較して、心不全後の生命予後が良いとされています。
全身(特に足)の筋肉量が低い方は全身から心臓へ血液を戻す能力が低下しており、
心臓が過度に働き続けることで心不全になりやすいとされています。
心不全のリハビリテーションはその方の重症度にもよりますが、
心肺機能をモニターしながら運動療法を実施するのが一般的です。
息が上がるような高負荷の筋力トレーニングは高齢者にはあまり推奨されていませんが、
歩行訓練と低負荷の筋力トレーニングを併用することで、運動時の息切れや疲労感が少なくなると研究報告されています。
歩行能力向上の効果
これまでの内容で歩行訓練が重要なことはおわかりいただけたと思います。
では歩行能力が向上することでどんな効果があるのか、 全てをご紹介することは難しいですが、
代表的な歩行能力向上による効果をご紹介いたします。
日常生活動作(Activity of Daily Living:ADL)の向上
医療関係者ではお馴染みの用語です。
日常生活に置ける必要最低限の動作(寝返り・起き上がり、移動、食事、更衣、排泄、入浴、整容動作)を指します。
ADLの代表的な評価方法はBIとFIMという評価方法があります。どちらも点数が高いほどADL能力が高いと判断されます。
BI:バーセル・インデックス(日本ケアサプライ様より引用)
FIM:ファンクショナル・インディペンデンス・メイジャー
そして、歩行能力が高い(歩行自立度が高い)方ほどBI、FIMの点数が高いとされているため、
歩行能力が向上すると日常生活の自立度が高まるということになります。
生活の質(Quality of Life:QOL)の向上
QOLとは身体的な苦痛の軽減、精神的、社会的活動を含めた
総合的な人生における活力、生きがい、満足度のことを指します。
これは身体機能だけではなく、「今はどれくらい良い人生と感じられているか」ということを示しています。
代表的な評価としてSF-36という評価方法があります。
SF-36
このQOLも歩行能力と関連があるとされており、歩行能力の向上はQOLの向上の一因ではないかとされています。
健康寿命との関連
健康寿命は入院中の方に限らず、在宅におられる方も含めて関連があります。
海外の研究において、歩行スピードが早い方(歩行能力が高い方)は歩行スピードがゆっくりな方と比較して、
がん・糖尿病・心疾患・脳疾患・認知症などの発生リスクが低いという研究結果が出ています。
【まとめ】セラピストと相談して目的をもって歩行訓練をしよう!
いかがでしたでしょうか。
単に歩行訓練と言っても様々な意味があることが少しでも感じられましたでしょうか?
今回の記事では大まかな紹介を行ったため、気になる方や興味がある方はご自身の担当セラピストに質問していただき、
より目的・目標を明確にもってリハビリテーションに励んでいただけると幸いです。
また、セラピストの方もこの記事を読んで復習の機会にしていただければと思います。